獣医学・獣医術の歴史データーベース

明治維新の頃,日本にはまだ獣医の制度はありません.この頃は馬の療治は武士の身分の「馬医」が行っていました.やがて,軍隊が洋式化され,革靴,羊毛服,牛肉缶詰が大量に必要となると,馬医は獣医と名称を変え,資格も国家試験免状となります.日本の獣医術や獣医学は主に軍馬の治療と軍人の食料(牛)・衣服(羊)のために発達しました.軍犬や軍鳩が研究の対象となるのは,ずっと後の事です.

2021年11月1日月曜日

広辞苑にも誤りはある。見島牛

 広辞苑第七版の発行は二千十八年一月十二日で発行所は東京都千代田区一ツ橋二-五-五の株式会社岩波書店である。非常に有名な辞典でだれもが嘘はあるまいと信じている書物である。しかし、この辞典の2803頁三段末から四段始めに次の記載がある。『みしまうし[見島牛]山口県萩市見島に産する日本在来の牛。平均体高一・三メートルと小型で、和牛の原型と言う。天然記念物。』

三国志の倭人伝にある通り日本には在来牛はいない!しかも天然記念物に指定されたのは「見島牛の産地」で、牛そのものではない。

あまりに酷いので知り合いの山口県畜産課や萩の観光協会や博物館クラスの公共機関にはそれとなく注意しておいたが、新聞記事にグルメ探訪ブログになるとあまりの数になるので注意する方が馬鹿らしくなる。

編者の新村出氏にGメールを出そうと思うのだけれどアドレスがないのでよわっている。岩波書店の広辞苑編集部には電話があるのだが、高い電話料金を払うのは貧乏な年金生活者には到底無理なので見なかった事にして、黙っておく事にする・・・

2019年10月18日金曜日

獅子身中の虫と獅子心中の虫

獅子と呼ぶ肉食獣の体内に寄生する寄生虫は全て獅子身中の虫。肉食獣の心臓に寄生する寄生虫は獅子心中の虫で、線虫類の犬糸状虫、心臓糸状虫また剛強糸状虫。学名Dirofilaria immitis
他の線虫類の寄生はまだ報告を見ない。心臓内に寄生して、血液の循環障害を惹き起すので他の獅子身中の虫よりタチが悪い。余談になるが獣もシシと読み、牛にもタチと称する病がある。ネット上の辞典にあまりにもひどい記述があるので犬糸状虫症予防薬開発者の一人として釘を刺す次第。犬糸状虫症の最初の報告は駒場農学校・ヨハネスルードヴッヒヤンソン門下の青山敬一が「医事新聞」だったと記憶している。獣医師は自分の目で見たから嘘はつかないが、見たことのない者はお釈迦様が見たと言って嘘をつき、ネットに投稿するから笑い物になる。あの岩波の「広辞苑」でさえ見島牛を天然記念物とするから、馬鹿も休み休み言え!となる・・・獅子身中の虫の代表は線虫類の犬小回虫で学名にはライオンの回虫と記してある。

2018年7月15日日曜日

昭和十八年 江本修の「獣医学発達史」


昭和14年8月30日稿とあるからそれ以前に刊行されたものを参考にしている。参考文献は田熊秀の「日本獣医学史」昭和十一年と考えられる。

2018年4月23日月曜日

日本家畜売買法・佐藤清明

著者の佐藤清明は明治十八年七月に駒場農学校を卒業。同期が時重初熊、廣澤辯二に生駒藤太郎とある。書誌的にはどのように扱うか苦しむ書物である。用紙は上等で昭和十八年の雑誌よりはるかに保存状態が良好である。







2018年4月22日日曜日

「日本獣医学史」の判別

「日本獣医学史」昭和四十二年復刻は奥付まで複製されたため昭和十九年の刊とされることがある。最も簡単な判別方法は書の寸法で書誌情報だけでも判別が可能。書誌情報に大きさ21cmとあれば初版、22cmとあれば復刻版である。復刻も内容は同じであるが特殊な研究にはこの判別が必要なことがある。国立国会図書館のデジタルコレクションは初版である。

2018年4月21日土曜日

獣医開業規則之義に付伺


2006/08/31Blog
[ 12:59 ]
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獣医開業規則之義に付伺
獣医の義是迄府県適宜の処分に任せ自由営業差許来候処其徒たる曾て病理の何たるを知らず惟言われなき家伝の慣習若くは謹々の漢方等に拠りて施治するものにて要するに家畜の衛生を保護するに足るべきものに無之因て漸次之を改良せしめんが為め去る明治九年以来当省所轄農学校中に獣医の専門科を置き泰西の学術に基き正則又は変則の二法を以て生徒を養成し来候処既に卒業したる獣医学士或は獣医生も数多有之遇々府県にも採用せられ随て治術上に成功を顕はすに至り加え是迄慣習により営業致来候ものも漸く其迂拙を悟り到底泰西の学術に拠らされは真性の治療を得る能はさる事を略了解するの場合に有之抑我邦の牛馬たる啻に其種類の下劣なるのみならす其頭数に至りても人口に比較すれは其闕乏を極め農事軍用の得失利害に関する実に浅少にあらす然るに其改良繁殖を図るには之か衛生を保護すへき獣医の学術を振起して人医と同等の地位に進ましむるの計画なかるへからす依て獣医開業規則を制定せられ試験科目に拠り其及第者に限り来る明治十八年七月一日より当省に於て開業免状を下付致度但僻陋の村落に在て合格の獣医を得難き場合に於ては暫く開業仮免状を下付し以て漸次に完全せしめ度内務大蔵両卿協議の上別紙開業併試験規則布告布達案を草し此段相伺候条至急仰御裁可候也
 明治十八年二月廿日 農商務卿伯爵西郷従道
 太政大臣公爵三條實美殿


 狂犬病の義に付警視庁へ照会の件
明治十七年十二月九日 農商務省新山荘輔
回答 明治十七年十二月十七日 警視庁
明治十七年一月より十一月三十日に至る狂犬及ひ平病犬撲殺の総数 
和種狂犬 三百九頭
和洋雑種狂犬 五頭
和種病犬 一頭
和洋雑種病犬 五頭
 総計三百二十頭

畜犬取締規則 畜犬取締は所轄警察署の警察官吏と警視庁が行う





[ 更新日時:2006/08/31 13:03 ]




大日本獣医会誌



2006/08/21
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[ 08:05 ]
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大日本獸醫會誌1號1~6頁。明治18年9月 小澤温吉 論説「讀獸醫免許規則」
獸醫の職業は之れを分けては甚だ多端にして一人の兼ね能すべきにあらず。其用は頗る広 大にして一言の説き尽くすべきにあらず。官衛に市街に牧場に軍隊に往く処として用あら ざるは無く、之れを大にして公衆の資産を保護し、之れを小にして細民の家畜を救済し、其 世に効益を与うる事決して小々ならず。我邦維新前に於ては真正の獸醫なく、唯に伯楽及び馬醫なる者ありて五幾七道の間に散在せりと雖も、職業とする処は専ら馬牛の治療とその 蹄鬣を修理するに止まり、其目的とする処は斗升の米麥を甘受するにあり。其状恰も靴工髭師に異ならず(其中或いは大志を抱いて夙に泰西の獸醫学術に苦心せし者なきに非ずと雖も寥々数うるに足らず)。獸畜の衛生、伝染病流行病の予防、畜産の改良、食獸の検査の如きは夢だにも之れを感ぜざりしなり。況んや其治療と称するものは口蓋蹄冠の刺烙、附蝉の烙鐵に止まり、會々内科に属する病に遭えば妄りに無効の草根木皮を投じ、以て袖手傍観の謗りを免れんとするに於いておや。此類の輩は全國を通じて一万人に下らず。就中其性質を分析すれば十の七八は農或いは商を本業とし、病獸治療、蹄鬣修理の如きは其の内職に過きず殆んど農夫の雨天に草鞋を造り夜間に縄索を綯ふと一般なり。其治療を本職とするの輩に 在りても概ね馬商を兼ね或は主を馬商を業とする者あり。豈に之を以て伯楽と称し馬醫と 呼ふに足らんや。況ん乎之に獸醫の名を冠せんとするは、濁酒店の縄簾に傍ふて曾席料理の招牌を掲くるよりも甚たしきおや。此の如き名實不適當の輩に二百五十餘萬頭の貫重なる 畜産を委任せん事は甚た不安心の至りと云ふべし。我明治政府は夙とに此等の事情を洞察 せられ、陸軍省に於ては明治五年地方有力の馬醫を徴して軍馬の衛生治療の事を司らしめ、仝七年に彿國陸軍獸醫アンゴーを聘して獸醫生徒を教育し、内務省に於ては明治九年英國 獸醫ドクトル・マツクプライドを、農商務省に於ては仝十四年獨國獸醫ドクトル・ヤンソ ンを聘して前後数十名の生徒を養成し、以て之を各地方に派遣し其希望する處の業に就か しめたり。然るに地方の人民は数百年来の古俗舊慣に安し、西洋の獸醫に依頼して高貴の薬石を購はんより、寧口有合の来麥を出たして低価の伯楽を聘するの便且つ利なるに如かす と愚信し、伯楽も亦た米麥の扶持に甘んじ、唯々其佳客を失はん事を是れ恐れ、日夜狂奔疲 労して尚ほ願みざるの有様なれ。眞正の獸醫は連も民間に於て其伎倆を逞ふするの餘地を 視ず。何そ共効積を奏するの日あらんや。然れとも全國を挙けて皆此の如して云ふにあらす。近来岩手、秋田には縣立獸醫学校あり。山形、仙台、石川、福岡、熊本其他の數縣には獸醫学校或は講習所等の設ありて、眞正の獸醫を聘し盛んに獸醫の生徒を教育せり。是に於てか獸醫の需要稍々端緒を開けり。然るに全國の廣き獸畜の多き僅かに二三獸醫の其所を得 たりとて満足すべきにあらず。宜しく益々眞正の獸醫をして普くひ真正の事業に就かしむ へきなり。政府も亦た早く茲に見るあり。明治十八年八月二十二日を以て雑録欄内に掲くる獸醫免許規則及ひ獸醫開業試験規則を発布せられたり。此規則の施行せらるゝに至らば従 来各地方に於て累世馬牛の治療を業するの輩は(現今獸醫の学術を講習する者を除き)勿論三稜鍼を放ち烙鐵を棄て、転業若くは破産するものなかるべしと雖とも、萬一舊来の獸 醫にして俄かに其進路の方向に迷惑するものある時は、気の毒の至りなれば政府も深く此 に顧慮せられ、規則の實行に一ヶ年の猶預を輿へ布告第五條を設けて以て當分従来の伯楽 或は馬醫をして、共営業を持續するの便を得せしめられたるものと信す。吾儕を以て之を視れば舊来の獸醫則ち伯楽は前に述ふるが如く、概ね病畜治療と蹄鬣修理を専業とするに眞 正の獸醫は唯々病畜の治療を為すのみならず、獸畜の衛生を説き、流行病傅染病の預防を講し、畜産の改良を謀り、屠獸屠肉販売乳の検査を行なひ、大小獸市の健全を監察し、其他人畜の間に於ける衛生上の関係を協議する等の重任あるを以て、彼の蹄髭修理の如きは眞正獸 醫の為すべき事にあらさるか如し。依て吾儕は蹄鬣修理の業を獸醫の範囲外に置かれん事 を希望す。若し蹄鬣修理の事を以て馬醫専業の一部とせらるゝは、譬は従来近隣の薬舗に於て診察を受け並に賈薬を服したるに、今や其診察を廃せられて西洋醫師の開業を免許せら ると同時に、公浴堂と結髪を一緒に失ひたるが如く、獸畜の為め不便なるべしと思ふ。吾儕 は此の如き職業を方今都府に行はるゝ蹄鐵工の部類に属し、別に蹄鐵工営業規則或は取締 規則等を設けられ以て之を統轄せられん事を希望すべし。果して此の如くなれば従来の伯 楽も尚ほ其営業の一部たる蹄鬣修理を営為するを得べく、又た眞正の獸醫も主ら獸醫たる べきの本分を守り強て他の賤業を兼ぬるに及ばざるべし。偶々獸醫免許規則を発布せらる に會し、聊か思ふ処を陳ふる事爾り。明治十八年大日本獸醫會誌第一號の発兌に臨み聊か感ずる所あり。左の小言を記し以て今回の責を塞がんとす。





[ 更新日時:2006/08/21 08:06 ]