牛科撮要全 梅林堂寿梓 一七二〇年 享保第五龍集庚子 京・東六條下数珠ヤ町 丁子屋九郎右衛門
牛科撮要序
夫牛者農家之至用而助人力
也勝於侘獣其功尤偉者也而
天受之稟良薄於侘獣故食之
者摂養可用意也苟遇天疫之
放行由飲食之窒碍忽生疾病
也有一証俗呼多智死在旦夕
甚則村村戸戸流注而牛属畢
病矣窮郷賎民逢斯難則走神
社告巫覡祓之慢委伯楽医之
既至不救坐俟斃千槽櫪之間
而巳鳴呼不帷蓋之思不及其
物還與屠人之手可勝嘆哉我
家業稼穡牛科之抜粋者数方
世秘筐笥敢不洩也間依書肆
之需新改正以加図画彩色令
寿梓也然小秩何足徴唯備治
牛之一小補耳也維眨
享保第五龍集庚子仲冬念日
摂陽之野人
桃林子書
きくわさん みのすじひとつふせたいら事
△きくわさん 土龍 海桐花 五八霜 牡蛎
右四品うめみずにて
白朮 当帰 枳殻 川弓 右等分に合せんじ飼うなり
はいと云うわずらい 目黄色になりはいいたむ
△はい 巻柏 牡蛎 五八霜 麒麟竭
右うめみずにて但 桔梗 羌活 麦門冬 黄今 括婁根 楊梅皮
右等分せんじ飼うべし
たち 目頭より赤きすじを三すじ出で目へのせ、目のふちを 吊り睨む也これをたちという
△たち 五八霜 土龍 海桐花 麒麟竭 鮒黒焼 鰻黒焼
いな黒焼 巻柏 牡蛎
右等分に合うめみずにて 飼うべし
きのふ 目の内黄色になり赤き舌を出し舌先より涎垂るを きのふと云うなり
△きのふ 大黄 大 白朮 大 桔梗 縮砂 少 山梔子 中
茯苓 細辛 升麻
右合せんじ飼うべし
きも 目尻より一すじ赤き筋を出し 足の内を向く也きもの わずらいと云う
きも 五八霜 土龍 蕗 各等分 茯苓 少
かい汁、夏は大根ゆきおろしの 汁にて春、秋は酢酒の汁の事
甘草 大 茯苓 中 黄今 等分 白笈 中 黄蓮 中 乾羌 少
合せんじ飼うべし
いんしょう 目頭より縁を赤くなし赤き舌を 垂れるをいんしょうと云う
△いんしょう 白朮 当帰 黄今 芍薬 茯苓 枳殻 甘草
右等分に合せんじ飼うなり
いんしょうの風邪 目頭より白まなこへ赤き血を 出し目を睨む赤き舌
少し垂れたるをいんしょうの風邪と云
△いんしょうの風邪 白朮 当帰 枳殻 薔薇 梹榔子 黄耆
右せんじかふべし
大祢つきさます事 □□の内を赤くなすを 大祢つきと云うなり
△大祢つきさます事 白朮 大 茯令 大 当帰 少 細辛 大 黄今 少
乾羌 少 黄蓮 中 梹榔子 少 土龍 少 莪朮 大 甘草
右合せんじ飼うべし
いの腑のわずらい 目の内の白くなるをいの腑の わずらいと云う
△いの腑のわずらい 莪朮 木香 胡黄蓮 黄今 黄耆 白述 桔梗
右等分に合せんじ飼うべし
かんの腑いたみ 目薄く黄色に赤き舌少し出すを かんの腑のいたみと云うなり
△かんの腑いたみ 黄今 白述 黄耆 薔薇 藜蘆 麦門冬 縮砂
右等分に合せんじかふべし
しんの臓のいたむ事 目尻より赤き血を出し目をひきつり舌をくわえしんの臓の
わずらいと云
△しんの臓のいたむ事 甘草 香木 麦門冬 牛膝 人参 大黄
右等分に合せんじ飼うべし
たんの腑の事 目下赤くひつめを睨む
△たんの腑のいたみ 乾羌 大 当帰 中 桔梗 少 使君子 同 葛根 大
縮砂 右合せんじ飼うべし
こころのわずらい 目よりちをいだす
△こころのわずらい 川弓 大 黄蓮 中 細辛 大 五茄皮 中 黄今 大
枳殻 大 陳皮 少 右合せんじ飼うべし
四津の腑いたみ 目尻の上より赤き筋一筋出し 目を引きつり舌を少しくわえる
△四津の腑いたみ 白述 大 当帰 同 縮砂 少 天南星 少 地龍 甘草
附子 右合せんじ飼うべし
かのわずらい 目頭より上のふち赤くなして 引き付く
△かのわずらい 茯令 細辛 大黄 当帰 木香 楊梅皮
右等分に合せんじ飼うべし
ひの臓のいたむ事 目を白くなし黒まなこ無きは ひの臓いたむと云う
ひの臓いたむ事 川骨 大 枳殻 中 薔薇 大 梹榔子 少 紫蘇 大 甘草 中 黄耆 少 土龍 中 右合せんじ飼うべし
うめきやまいの事 目の内赤く□□□□ うめきやまいの事
黄璧 中 川骨 少 甘草 大 川弓 少 木通 大 白述 大 苦参 少
葛根 大 黄檗皮 右合せんじ飼うべし
しんの臓の風邪里へ落ちる事 目下より赤きくもを出し 下腹より黄色になり
総の毛を 立つるなり
△しんの臓の風邪里へ落ちる事 紫蘇 乾羌 陳皮 升麻 梹榔子 五茄皮 薔薇 白述 甘草 黄蓮 葛根 祢さく 右等分に合せんじ飼うべし
明治維新の頃,日本にはまだ獣医の制度はありません.この頃は馬の療治は武士の身分の「馬医」が行っていました.やがて,軍隊が洋式化され,革靴,羊毛服,牛肉缶詰が大量に必要となると,馬医は獣医と名称を変え,資格も国家試験免状となります.日本の獣医術や獣医学は主に軍馬の治療と軍人の食料(牛)・衣服(羊)のために発達しました.軍犬や軍鳩が研究の対象となるのは,ずっと後の事です.
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